第五章

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* * * * * 「藤堂さん、入りますよ」 返事はなかったが、私は襖を開けた。 「飯はいらないって」 藤堂さんは小さい声でそう言った。 声が小さいのは、口をあまり動かしてないから。 「お粥なら口の傷もあまり痛くはないと思いますよ」 私が言うと、藤堂さんは目を見開いた。 「永倉さんと原田さんが言ってました。」 私が言うと、藤堂さんは視線を私からずらして舌打ちをした。 「あと、傷に蜂蜜を塗っておいて下さい」 「なんで蜂蜜?」 「蜂蜜には殺菌や消炎作用があるんです。だから塗った方が早く治りますよ?」 藤堂さんは口をぽかんと開けたまま、目をパチパチさせていた。 「お前、医術とか習ってたのか?」 「いえ。実体験と、おばあちゃんの知恵袋です」 実際は、テレビで知ったのだが、そんな事、言えない。 「じゃあ、失礼します」 「あぁ、ありがとよ」 私は一礼してから藤堂さんの部屋を出た。
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