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ひらひらと舞い落ちる雪が、いつの間にか桜になっていたことに気づいたのは、オレの親父が進学する学校を選んでいてくれていたことを知った時くらいだった。
その学校は親父の母校らしいのだが、教えてくれたのは学校の名前だけで、他のことは全く教えてはくれなかった。
自分で調べてはみたものの、これといって手がかりもなく、場所すらわからなかった。
「入学まで……三日か」
早生まれのオレはもう十九歳だ。
親父の影響で幼い頃からずっと竹刀や本物の刀を振らされてたからか、刀を振ることが日課になっている。
今日も今から親父から譲ってもらった刀で素振りにいく予定だ。
もちろん、オレが生まれて早くに死んだ母さんに手を合わせてから。
「母さん、今日も行ってくるよ」
上質な布に包まれた刀を掴み、玄関で靴を履いて外へ飛び出す。
家から十分ほど行ったところにある空き地。
隣には母さんの眠っている墓地がある。
「さぁ、始めますか!」
左手で紅い柄を掴み、右手で掴んでいる鞘から一気に引き抜く。
淡い蒼色と薄い白が混ざったような色に染まる刀身はとても美しい。
「待て、悠利」
「……親父……なんか用か? 朝飯なら机の上に……」
「そうじゃねぇ。今日は久々に稽古してやろうと思ってな」
親父はそう言って刀を抜く。
その姿を見ただけで、とてつもない存在感に圧倒されてしまいそうになる。
「年が年なんだから無理すんじゃ……ねぇぞ!」
速い踏み込みで一気に間合いを詰める。
だが、何故か親父は余裕そうだ。
いつもそうだった。
余裕の時は決まってあんなあざ笑うかのような顔をする。
「ちっ! 喰らいやがれ!」
「おっと……! 刀をやってから十年以上……まさか今の今まで刀振ってたのか?」
「ああ! それが唯一のストレス発散方法……なんでね!」
お互い軽い身のこなしで攻撃を回避する。
また惜しいところで回避される。
「稽古したらわかる。お前がどんなに苦労してきたかが」
オレはまた速い踏み込みで、親父の懐に入る。
「稽古なんかでわかるほど……そんな浅いもんじゃねぇよ!」
刀と刀が数回ぶつかり合い、金属音を響かせた後に……一撃。
オレが振り切った刀は親父の服の一部を斬った。
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