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そんなオレを見向きもせず、親父は早足で帰っていく。
その後ろ姿は、いつもと違う雰囲気を醸し出していた。
「魔法……って、マジで信じられねぇ」
だが、信じない訳にはいかない。
いつも頼りない親父の、ごく稀に出る本気の眼差しを見てしまったから。
「……」
少しボーっとして髪が風と踊り終わってから、オレも帰ろうと踵を返したその時。
「悠利?」
階段の上からオレを見下ろす少女。
それは近くの家に住んでいるオレの幼なじみである、【望月 知世】だった。
「お、知世か。珍しく朝早いな……どうした?」
「私がいつも起きるの遅いみたいに言わないでよっ!」
顔を隠す麦わら帽子をグイッと上げて、笑顔を見せる。
また風が吹き、今度はオレだけじゃなく知世の髪まで泳がせた。
「気になってたんだけど……進路、どうなったの?」
「親父の母校へ入学することになった。今度ばかりは一緒にはなれないんじゃないか?」
オレの言葉に表情が固まった知世は、舞い落ちては風により舞い上がる桜を見つめてクスッと笑みを浮かべる。
「私ね……なんでかわからないんだけど、絶対に悠利と一緒になるって気がするんだ」
「ほ~、お前の勘は昔から良く当たったよな。案外あり得るかもしれねーぜ?」
知世は多分、一生オレの生きる道には上がってこれない。
オレは本当のことを言えなかった。
絶対一緒にはなれないのに、希望を持たすような嘘を言ってしまった。
「悠利がもし私と違う学校へ行ってしまっても悠利は……」
「?」
「ううん、やっぱりなんでもない」
少し悲しそうな顔で話す知世。
今コイツが何を考えているか、全くわからない。
知世はいつもそうだ。真顔で話を止める時は、いつもあんな顔をして気持ちを読めなくする。
「悠利、おじさんは元気?」
「ああ、元気過ぎてうぜぇくらいだよ」
苦笑した知世はオレの家の方向へ歩いていく。
「家に来るのか?」
「うん。おじさんに呼ばれたんだけど……何も聞いてないんだね」
「ああ……」
知世と一緒に桜の花びらが舞う坂道を上がって、街の山の上にあるオレの家に到着した。
景色だけは最高級の高さだが、坂道はかなり疲れる。
「相変わらずの家だね。和風で広くて、その上大きい」
「相変わらずって、お前晩飯食いに三日前に来ただろ」
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