弐 くすりうり

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埃を払い、立ち上がった茜音。 「じゃあ、行く?」 促され、芙蓉は門を潜った。 屋敷の中を進みながら芙蓉は、前を行く茜音の姿をじっと見る。 芙蓉より三つばかり年上だがそうは見えないどころか幼く感じられる彼女。しかし時折見せる年相応の表情に、芙蓉はよく戸惑っていた。 「ぶえっくしゅっ」 突然、茜音は体を大きく揺らし、顔に似合わぬ大きなくしゃみをした。驚いた芙蓉だったが、すぐに詰め寄り訊ねた。 「もしかして一晩中外にいらっしゃったのですか」 「そうだけど?」 その答えに、意識せずとも溜息が零れる。 「だから言ったのに……私がお兄様に叱られてしまいます」 「大丈夫だって! 昔は兄様もうるさかったけど」 鼻を啜ると、茜音はにやりと意地の悪そうな笑みを浮かべ、芙蓉をみる。 「今は、ねえ」 意味深な言葉を向け、ある部屋の前で立ち止まる。 「それじゃあ、頑張ってえ」 「………」 その部屋はこの屋敷の家主、茜音の兄の部屋。苦い顔をした芙蓉は深く息を吐く。隣にいたはずの茜音はもう行ってしまった。 (茜音さまは楽しんでいるのではなかろうか…) 一抹の不安を抱え、芙蓉は中にいるであろう人物に声をかける。 「芙蓉です。只今戻りました」 「……入りなさい」 直ぐに涼やかな声が返事をした。
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