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不意に、顔を上げる。
今、サテラの声がしたような気がした。
薪を割る手を止め、俺は周りを見回す。
しかし、サテラの姿は見えない。
…サテラ?
…まさか。
「おい、セツ」
「…」
魚人や獣人の少年達が俺を取り囲む。
しかし、俺には今それどころではなかった。
サテラが危ない。
「おい、無視すんなっつってんだろ?」
「なあ、種族無しさん」
「お前そんなんだから捨てられたんだよ」
けらけらと耳障りな笑い声が響く。
鬱陶しいことこの上ない。
俺はそいつらを無視し、横を通り抜けようとした。
だが、突然腕を掴まれる。
「いっつもいっつも俺らを馬鹿にしたような目ェしやがって…。お前なんかな、サテラが庇わなきゃ、今頃村を追い出されて死んでる身なんだぞ?」
「そうやってサテラに甘えて、金魚の糞みたいに引っ付き回って、恥ずかしくねぇのかよ」
「この屑!サテラは優しいから迷惑だって言えねぇだけなんだよ!そんくらい察したらどうなんだよ、ああ?」
「…黙れ」
今まで一言も言葉を発しなかった俺が、初めて反応を示した。
そのことに気を良くしたこいつらは、ニヤつきながら、薪割りの斧をちらつかせる。
「テメェなんかな、サテラに迷惑かけるだけの屑なんだよ!」
「さっさと村から出ていけ!」
斧の切っ先が、俺の頭上から振り下ろされる。
一瞬のことだった。
一瞬で、俺は刀を抜き、その斧を真っ二つに切り裂いた。
ごとりと音を立て、斧が地面に落ちる。
放心するガキ共を無視し、俺は一目散に森へと駆けていった。
「…ば、バケモン…だ」
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