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沈黙――
暗い広間に吐息が漏れる。夜の闇に飲み込まれたような静寂は、広間に続く廊下を叩く足音に打ち破られた。
「王女が居たぞ!」
荒々しい声に導かれるように、ジェノアと同じ甲冑に身を包んだ騎士が雪崩れ込んでくる。王女を前にした恭しい様は微塵も感じられず、猥雑な視線を向けていた。
ジェノアは無言のまま彼等の前に立ち塞がる。憮然として視線を向けた。暗い瞳には殺気と呼ぶには生易し過ぎる程の殺意が籠められている。
騒然としていた広間に静寂が戻った。それと同時に金属が擦れる音がやけに大きく響く。
僅かな燐光を放つ剣を構えるジェノアを前に、騎士達は動けなかった。ジェノアを前にして、それは命取りになる。僅かな時間でも動きを止めれば切り伏せられるのだ。
甲冑の重さなど感じさせずにジェノアが跳ぶ。絨毯を蹴った足を、セリアは勿論、他の騎士達も視認できなかった。
ジェノアの剣が闇を切り裂くと同時に悲鳴が上がる。胸当てと共に横に薙がれた騎士が壁に叩きつけられたのだ。空隙を埋めるようにもう一度ジェノアは剣を振る。
神速と呼べる速さの鉄の塊は甲冑をも切り裂き、それを目視させない。
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