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風習とは変わったもので、子供たちの興味を引くものは根強く残るものである。万聖節の前夜祭であるハロウィーンも御多分に洩れず、子供たちの一大イベントとなっていた。
スレンダーな体型を際立たせる黒いローブを着込んだ少女の手には仮装用のカボチャの被り物が握られ、ウェーブした赤髪と同系色の赤い瞳はお祭り騒ぎの子供達を優しく見つめている。彼女の細腕の先には髪の色こそ違えど、彼女の面影を引き継いだ幼い少女がいた。
魔女の仮装は少女には大き過ぎて、尖がり帽子も顔の三分の一を覆い隠している。歳の離れた彼女達は喧嘩も知らない仲の良い姉妹である。
そんな浮かれた子供たちの中では落ち着いた雰囲気の姉妹の視線は、カボチャの被り物をした人物に向けられていた。
「お姉ちゃん。妖精さんだよ」
「いいえユキ、あれは変態よ。ユキは何時も可笑しな風に物事を捉えるんだから」
妖精を見た事の無い姉のマキも、流石に目の前の人物を妖精と認めるのは無理である。その理由としては、刳り貫かれたカボチャの目の部分から覗く人間の、しかも目尻の皺から見ても壮年を少し過ぎたあたりの目が明らかに人間のモノであるからだ。そして、被り物から生えた首筋も拝んでしまった。すでに妖精の部分を探す方が難しい。
「ユキの背じゃ見えないかもしれないけど、私は見たわ。あのカボチャの中身はおじさんよ。ハロウィーンで大人が仮装して参加するなんて変態以外の何者でもないわ」
「わわっ! うっかり騙されるところだったよ」
姉の言葉ですぐに自分の考えを改めるユキは、生粋のお姉ちゃん子なのだ。もう一度カボチャに目を向けたユキの言葉は率直で、そして核心を突く。
「そう言えば、さっきからずっとユキ達の事見てるもんね」
そんな何気ない一言にマキの心臓は確かに跳ね上がった。変態が参加しているとして、ユキや自分に危害を加えなければどうでもいい。しかし、自分たち姉妹を凝視する人物に恐怖を覚えないほど図太い性格ではないのだ。
妹だけは守らなければ――
そんな使命感に駆られたマキは、すぐさまその場を離れる事にする。しかし、走る事は出来ない。あからさまに逃げればカボチャを刺激してしまうかもしれないのだから。
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