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「・・・未だにそういうものたちがいたんですねぇ・・・」
呆れも含んだその声は吐息を一つ漏らして、考え込むように途絶えた。
「これはこの村の問題だ。あんたはまったくの無関係だし、関わらせるわけにはいかない。わかったら見つからないうちに早く出て行け」
旅人を逃せば、姉が贄となることはわかっている。
しかし、この件は姉とよく話し合った末のものだ。巻き込むくらいならば我が身を捧げようじゃないか、そう決めたのだ。
リュウ自身も己が贄となったときには、他人よりもその身を優先して捧げることだろう。
「私たちのことならばお気になさらないで下さい。今更少し生きる時間が少なくなったところでそうそうに変わるものでもありませんし」
にこりと微笑んだ姉の瞳には、はっきりとした決意の意が映っていた。
「・・・親御さんは悲しむのでは?」
「構いません」
「俺の友達も贄として死んだ。俺たちだけが逃げるなんて向こうに行ったときにあいつらに合わせる顔がないだろ」
そうですかと小さく呟いて、旅人はまた黙った。
そして、笑った。
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