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「母さんがあの人に出す飯のしたく手伝えってさ。なんたってねぇちゃんの代わりだからな」
リュウが無表情でそういうと塊は布団を弾き飛ばして姉はリュウを怒りに満ちた瞳で睨みつけてきた。
「私だって、好きで・・・好きで変わってもらったワケじゃないわ・・・ッ!!」
「知ってるよ。村長が決めたことだもん。旅人、・・・いや違うか、この村の者ではない者優先つーのは」
ふっと窓を見やればワクの中で綺麗な三日月が笑っていた。
まるでその弧は女神アフロディーテの微笑とも言える程妖艶で美しい。
しかしリュウの瞳には魔に堕ちし乙女リリスの歪に歪んだ嘲笑にしか見えなかった。
弱きものは強きものに支配管理迫害され生きていくのが常なのだと、己を見上げて足掻き続ける我々を嘲笑っているのだ。嗚呼、なんと腹立たしいことだろうか。
逆らうすべなき自分たちには何もする事は出来ないのだが。
「とにかく礼だって言えないんだ。せめてもの感謝の気持ちを込めて飯を作ってやりなよ。例え薬入りだってねぇちゃんの気持ちはあの人に伝わるさ。ごめんなさい、そして、ありがとう。俺はそんな気持ちであの人の世話をするつもりだよ」
「・・・そう、なの」
「せめてあの人が苦しまないように、最期の思い出が楽しいもので終わるように。そうしなきゃ、あの人が報われないからね」
あの人は俺たち家族にとっては暗闇の中の一筋の光。
狼の群れの中に紛れ込んだ哀れな仔羊。
エサとして喰われるしかないのだ。
恨むならば今日この日にここに来てしまった己の不運を恨んでくれよ。
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