現れた欠片

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ぎゅ、と拳を握りしめ、このやるせない感情の捌け口を探しながら、姉には気づかれないようにポーカーフェイスを崩さずに「下にいるよ」と部屋を出た。 そのときにドアにメモを挟むのも忘れなかった。 恐らく姉は、しばらくすれば旅人のもとに顔を出すのだろう。 この宿の看板娘の名にふさわしいとびっきりの笑顔で彼の人をもてなすのだ。 何気なく外に出ると、やはり変わらぬ三日月がリュウを見下ろしていた。 あなくちおしや、睨み返すように見上げる。 二つの見つめ合いはそう長くは続かなかった。 じゃりと、踏みしめる音。 「満月でもないというのに、月見ですか。随分と変わった趣味だと思いますよ」 「・・・イヤミな言い方だね」 「おや、私は嫌いではありませんよ、そういうの。むしろ、満月より三日月の方が美しいと思うんですがねぇ」 「変わってる」 「よく言われます」 _
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