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では帰りましょうか、と差し出された手は無視して家の方角へと歩き出した。
「ああ、そうだ」
くるりと体を反転させた。
「俺はリュウ、君じゃない」
後ろで「おや」と馬鹿にするような―あくまで個人的な感覚だが―声がしたが、空耳だと思い込むことにした。
夜遅く、足音をたてないように慎重に階下へ降りる。
父と母は、既に村長及びその他大勢と共に準備に取りかかっているのだろう。姉は了承済みだ。誰に気兼ねするわけでもないのだが、やはり用心するに越したことはない。
目的の部屋までやってくると、中から「入っていいですよ」と声を掛けられた。
姉以外にこの時間にこの場所を訪れることは知らないはずなのだが。
驚きを隠しながら、がちゃりとドアノブを回してみれば、彼は外からは見えないであろう僅かな光の中で微笑んで座っていた。
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