現れた欠片

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「旅人さん、この道は獣道ではありますが麓の街の近くの公道へ出る最短ルートです。どうかここからお逃げ下さい」 姉は至極真面目な表情で旅人に林の中にある獣道を指差した。 「きっと、あなた様は既にご存知なのでしょうが・・・、この村は数年前から魔物に贄を捧げています。三日月の晩、三日月が天頂に達するころ、贄を一人、山に置きに行くのです。皆さん家族が大事ですから、三日月の日にこの村に旅人が現れたら、その者を贄に捧げよう。そう村長様がお決めになられました。しかしここは山中の村、来るのは薬草などの取引業者ばかり。シーズンが終われば来るものは全くいません。そうして一人二人と村人たちは減ってゆき、今晩の贄には・・・、私に白羽の矢がたっていました。しかし、あなたがここに現れてしまった。皆は喜んでいますが、私にはどうしても喜べなかったのです。私の代わりに何も知らない方を殺し、僅かに生き長らえた時間をその罪を背負い、また贄に選ばれる恐怖に怯えながら生きていかなければいけないのです。私はきっとその生き方に耐えきることはないでしょう。弟が手引きしてくれるというので、ならばあなたを逃がそうと思ったのです」 「・・・生贄ですか」 へらりとした表情とは違い、声はとても重いものだった。 _
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