1章

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-8月13日20:00分- 明るいながらも柔らかな灯籠の光が古い神社の敷地内を照らす、数々の屋台が所狭しと並ぶ境内は人で溢れかえっていた。 その敷地内を紫苑は走る。 ゆっくり見ていたかった屋台も、今はそれどころでは無かった。 桔梗に見つからない自信はあった、あえて桔梗が行きそうな場所や屋台を避けて祭りを楽しんでいたのに、あっさりと簡単に見つかってしまった。 背後からは桔梗の怒った声が響く、テストが近くなる度に五月蝿くなるのは慣れてしまったが、楽しみにしていた夏祭りまで無しにされては堪らない。 ――――ひた、 ふと微かに、何かが這う音が聞こえた。 立ち止まり辺りを見回す、騒がしい人混みの声達しかもう聞こえない。 「紫苑っ!」 聞こえたのは声を荒げて名前を呼ぶ桔梗の怒った声、再び人混みを走り出す。 きっと気のせいだ、こんなに騒がしいのに何かが這うような音なんて聞こえる筈が無い。 そんな小さな音なんて… ――――ひた、 「…っ!?」 再び聞こえた音、躓きそうになりつつも立ち止まってしまう。
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