第1章

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  猫じゃない!! 猫は無表情のままだし、大きな笑い声に変わったあの声は別の場所から聞こえてきた。 一体どこで誰が…? 「ここだよここ」 奥の桜の木からひょっこりと手のひらが出てきた。 ゆっくりと手が振られている。 声の主は、私の位置からちょうど木に隠れていたから見えなかったんだ。 揺れている手のひらに不安と恥ずかしさを抱きながらも、誘われるように近づいていく。 揺れる手のひらがピタリと動きを止めた。 けれど私の足は立ち止まらず、一歩一歩前へ進む。 迷いはなかった。 あの手のひらのもとへ、すぐにでも行きたかった。
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