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「”丑の日”……ってなんスか?牛でも食べるんでしょうかね、クックックッ……」
しかし、鰻からその返答が来る事はなかった。
表情の強張りから徐々に周囲に放たれる殺気――
怨霊の集合体であるサディアスは、その殺気に逸早く気が付いた。
「わっ、ちょっ、ストォーーップ!鰻すんストォーップ!」
丑の日。
そう、それは”鰻”を食す日である。
サディストだが温厚な性格の鰻は、自分から仕掛けると言った事はない。
挑発は挑発で返し、皮肉には皮肉で返したりなど、そういった面でも彼は冷静に応対する。
が、しかし。そんな鰻にもタブーは存在する。
兎にも角にも、鰻を知る者は皆、口を揃えてこう言う。
『鰻の前で魚類の話はするもんじゃない』
と。
まだ鰯や鮪等、そう言った軽い物でなら何事もない表情で対応するが、”鰻”だけは明らかに反応が違う。
即座に”ブチ切れ”、タブーに触れた者に惨たらしい拷問にかけるのだ。
――と、説明するのはいいものの、今回のケースは丑の日である事を知らせる旗である。
なのでこの怒りの矛先を誰に向けるのかと言う疑問が残る。
だが、鰻は怒りの矛先を向ける対象を既に決めていた。
それは勿論、サディアスである。
凄まじい形相でサディアスの方を向き、懐にしまっていた愛用の得物、骸を装着する。
「わわーーっ!お、落ち着いて鰻さぁん!」
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