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久しぶりの故郷の空気、久しぶりの我が家、久しぶりのこの地。
我が家の前で一人、何時ものスーツ姿で澪隆鰻は故郷を見渡して楽しんでいた。
彼は円満すぎるとも言える家庭を築いていた。
夫である自分と妻、そして一人だけの愛娘という小さな家庭。
因みにその幸せは十数年と長らく続いている。
”愛妻家”、そう言えば聞こえはいい。
否、妻に対しては”愛妻家”で間違いはない。
ただ、一人娘に関しては違う。物凄く違う。
愛娘を持つ父親の誰しもが持つ、当然な思想、これがネックであった。
そう、それは所謂『愛娘に寄り付く男は追っ払う』と言う思想だ。
鰻の場合、『寄り付く”男”』ではなく、『寄り付く”害虫”』である。
つまる所、娘に話しかけたりする男は皆これに当てはまり敵対視する。
妻に対する愛が人二倍強いが、娘に対する愛も人二倍に強い。
そんな過保護とも言える、親馬鹿とも言える思想は娘本人も”若干”ながら気にしている。
「鰻さん鰻さん、雅さんが呼んでますぜ~。クックックッ……」
玄関からひょっこりと顔を出したのは、赤いジャージを着た女性。
金髪のショートヘアー、現実世界でならよく見かける赤いジャージ。
そして何よりも特徴的なのが、よく分からない口調と万人受けしそうな適度な人懐っこさと態度、そして狐耳と尻尾である。
しかし、鰻に対する彼女の人懐っこさはそこらの人物よりレベルが高かった。
笑顔で尻尾を振り、鰻の元へ駆け寄る様はまるで主人にじゃれつく仔犬である。
後ろから抱きつき、腕に頬擦りまでしながら心地よさそうに目を細める。
彼女こそが鰻の妻……ではなく、妻の友人である。
名はサディアス。彼女は不思議な事に、雅と同じ顔をしていた。
それ故に初見の者には双子であるという勘違いまで生ませる程だ。
「こら、鰻に抱きついていいのは私と華燐だけって何時も言ってるでしょ」
しなやかなポニーテールを揺らし、ムッとした顔で玄関から姿を現したのは紛れもなく本当の鰻の妻、雅。
彼女は開いた玄関に背中を預け、袖の無い肌に密着する滑らかな薄布地の上に袖無しのジャケット、そしてスタイリッシュなズボンを着て此方を見ていた。
鰻が”愛妻家”であるとするならば、雅は”極・ツンデレ”である。
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