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「もうちょっと頑張ってくださいね、サディアス」
もふもふと、耳を愛でるように摘んだりしながら、物惜し気な顔で鰻は言う。
コクコクと無言で頷きながらも幸せな表情を浮かべるサディアスだが、殺気の篭った雅の睨みにより一気に真顔に戻る。
普段はへらへらしているサディアスだが、戦闘の実力の程は計り知れない。
もしかすると鰻と雅より遥かに強いかもしれないし、どっこいどっこいかもしれない。
まだまだ、サディアスは未知数の域であった。
「……あっ、誕生日ケーキを買いに行こうとしてたんじゃないんですか?」
掌に握り拳を置き、実にわざとらしい表情で雅の方を向く。
言葉に詰まったような表情で睨み返すが、サディアスは勝ち誇ったようににんまりと笑った。
その禍々しい笑顔は、関係的には姉妹である、シュレーの物とよく似ていた。
元はと言えば、彼女は地底に棲む怨霊が集まって生まれた身で、実際の所は妖狐の部類には属さない。
しかし、本人が妖狐だと言い張るので妖狐と言う事にしておく。
「あっれぇ~?おかしいですねぇ?今日は”鰻さんの誕生日”だから此処に来たんじゃないんですかぁ~~?」
挑発成分を存分に込め、かなり間延びした声色で雅を問いただす。
質問はもう尋問に変わりつつあった。
嫌な汗が頬を伝う錯覚と共に雅はキュッと鰻の裾を掴む。
こうすれば鰻が何か言ってくれるであろう。そんな淡い期待が篭っていた。
しかし、そういう事柄を鰻がフォローするのは大して思い入れのない相手のみ。
解りきっていた事なのだが、雅は期待せざるをえなかった。
何せ、さっきまで度忘れしていたのだから。
しばしの沈黙の後、サディアスと雅は気になる鰻の表情を伺うべく視線を向ける。
鰻はジッと雅の顔を見つめ、何時になく素敵な笑顔を浮かべていた。
この笑顔は通称『拷問の笑み』と言われる笑顔である。
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