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「………ぁ」
ヒカルは目を覚ました。
薄明かりの中、天井と一緒に何か液体の入った袋が見えた。
支柱に下げられた袋はチューブによってヒカルの左腕へと繋がっていた。
ヴァーミンの体液を浴びた事への処置だと考えられる。
「気がついたの? 待って。いま明かりをつけるわね」
右腕で両目を覆い、明るさに目を慣らす。
思ったほどの眩しさはなく、明かりにすぐ目は慣れた。
近づいて来た人影は、軍服ではなかった。
星間服の上から白衣を着ている。
紫の背中まである長い髪は、ストレートで束ねられていない。やや面長なほっそりとした顔立ちは、見惚れてしまうほど美人だ。体型もスラリとしていて、まるでモデルのようだ。
白衣の胸ポケットから下げられた医療許可証。
許可証には顔写真と共に、女医アルピナとある。
よく見れば、惑星単位のものではなく、全銀河での医療行為ができる、最高レベルの許可証だ。
モデルではなく医者であることに二重に驚いたが、顔立ちや体型で職業が決まるわけではない。
外見で判断されることは、昔のヒカルが一番嫌いな行為だった。
「あの…モデルの方かと思いました。ごめんなさい」
アルピナは手際良く、簡単な診察を終える。
「いいのよ、良く言われるから。職業、間違えたかしら?」
外見で判断したことを謝ったが、アルピナは気にしておらず逆に笑いを誘う。
「そんなことより、ヴァーミンの体液を浴びたんですって?」
「………はい。」
怒られると思った。
「それにしてはあまり抵抗がないのよね」
だがアルピナはヒカルを叱るのではなく、検査結果に納得できていないように言った。
「あの…?」
「あ。身体には特に影響はないみたい。とりあえずビタミン薬ね、それ」
アルピナはヒカルに投薬しているものを指した。
「ビタミンは身体に必要なものだし、それに何か処置してあった方が安心するじゃない?」
「そうですね」
アルピナの笑顔につられるようにヒカルも笑顔で答える。
「あとはゆっくり休んでほしいんだけど、艦長が話をしたいらしいの」
「えっ?」
「心配しないで。艦長はとっても頼りになる人だから」
アルピナが思っている以上にヒカルは不安だった。
だって左手には、確実に身元を示すものがある。
過去の自分を示すものだ。
もう読み取られてしまったのだろうか。
話は過去のことだろうか。
過去のことはなるべく知られたくない。
ヒカルは不安で不安でしかたがなかった。
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