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「しぃはさ、ジャンケンの時いっつもグーばっかり出すよね」
"しぃ"と言うのは俺の名字、椎名からとったあだ名だ。
今、テーブルを挟んで反対側にいる俺の彼女、ミカがテレビから興味を失ったのか、唐突に話を始めた。
「そうか?癖なんだよ」
「だろうね」
そう言うミカはこの会話にも興味を無くしたのか短く返事をし、折り畳み式のケータイを開く。
「でさ、私達大事な事とか、小さい事とかもよくジャンケンで決めるよね。どっちにするー?って」
「だな。公平なのが一番だってミカが言い始めて」
結構くだらない、例えばどちらがアイスをコンビニまで買って来るかだとか、目玉焼きには醤油かソースかだとか、勝敗で決まるものじゃなくてもジャンケンで決めていた。
「でもさ、しぃがグーばっか出すから、あんまし公平じゃ無かったんだよね」
開いたケータイを顎に当てながら微かに笑う。
「あー、そう言えば俺、負けてばっかだった気がする」
「しぃはさ、タイミングが悪いんだよ」
「タイミング?」
「そ。たまにはさ、しぃも勝たないとカワイソーかなって思って私がチョキ出すと、しぃはパーを出すんだよ」
「そうだったか?」
余り覚えは無い。
「でも、いざって時にチョキ出してもしぃは負けそうだよね」
「そんなに俺はジャンケンに弱いか?」
「うん。タイミングが悪いからね。だからさ、いざって時はパーを出すんだよ」
「いざって時?」
「そ。これだけは譲れない、って時。パーならあいこになるから」
「そこまで大事な事、ジャンケンで決めんのかよ」
そのアドバイスが役に立つ事は無さそうに思える。
「そーゆう時が来るかもしれないよ?」
ふと、ミカがケータイをくるりと持ち替え、俺に画面を見せる。
「これ、なーんだ?」
液晶に映るのは、男と女が恋人みたいに手を繋いで歩いている写真。
男は俺で。
女はミカではなかった。
「浮気したら別れるって言ってたよね?」
ミカの言葉をぼんやりと聞きながら、言い訳を急いで考える。
焦っているのが顔に出たらお終いだ。
あの写真は、いつ撮られた?
記憶を引っ掻き回し、先週、ミカが女友達とカラオケでオールする、と言っていた日の出来事だと思い出す。
写真の女とは、その日合コンで会って……特に何も無かった筈だ。
現に名前すら思い出せない。
ただ、なんでそんな写真をミカが持ってるんだ。
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