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日置はゆっくり手紙を折りたたみ、忘れた頃に思いがけず届いた36枚の写真を一枚づつめくっていった。
そして、五ヶ月ぶりに原田写真館の女主人に再会した。
春、短い休みを利用して、陸奥に写真の旅に出かけた時、日置は原田写真館に立ち寄り、現像と自宅郵送を依頼していたのだった。
亡き父が撮った溢れるほどの写真の中で、隠すように封筒の中にあった見た事もない女性の写真と、今、日置の手の中にある女主人がやっと一つに繋がった時、日置は父から譲り受けたNikonFを更に愛しく想った。
バタバタと走る音がして、娘の舞花が『バパ、写真お散歩行こうよぉ』とはしゃいだ。
夕暮れ、土手の下から舞花を逆光でファインダーから覗いた時、日置は改めて、趣味にせよ、写真と素直に向き合おうと思った。
『パパ~』と手を振る舞花は、お気に入りのスカートを翻しながらレンズに向かい『笑顔のキス』をした。
そして、日置の切るシャッターの音は、夕暮れの静寂さの中に沁み渡るように強い存在感を持って響いていった。
完
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