一章 扉の向こう

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昇降口から出ると、少し傾いた太陽の日差しが目に飛び込んできた。 ここ、私立美四季(みしき)高校は少し高い丘の上に建っている。 少し遠くに目を向ければ、町の景色を一望することができる。 季節はちょうど春の終わり頃。 桜はほとんど散り、代わりに深緑の葉っぱが景色を緑色に彩り始めている。 肌に感じる空気も、日を増すごとに熱気を含むものになっていくのがわかる。 「さて、どうしようかな……」 雪井の誘いを断りはしたものの、何もせずにただまっすぐと家に帰るのは少し気が引ける。 かといって、用事もないのに寄り道するのは時間と労力の無駄のような気もするしなぁ。 「……でもまぁ、しゃーない。とりあえず、まっすぐ帰るか」 のんびりあてもなく帰るというのもたまにはいいだろう。 何か目を引くようなものがあったら、そこに寄ればいいだけの話だ。 そんなことを思いながらゆっくり歩き出した。 微かに、風が流れた気がする。
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