一章 扉の向こう

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すると、 「ではこの問18を……海崎敏也(かいざきとしや)。やってみろ」 不意に指名されてしまった。 不思議なことに、人はどんなに意識していなくても自分の名前を含む言葉ははっきりと聞こえるものだ。 「はい……」 ……なんで俺なんだよ、まったく。 心の中で舌打ちをすると、教科書で問題を確認してから黒板の前に立ち、ただ少し式の形を変えて公式を当てはめるだけの問題を解いていく。 幸いにも単純な問題だったので、大きな苦も無く終わらせることができた。 最後に出てきた答えの下に傍線を引いて、自分の席に戻る。 「……ここでこうして……正解だな。ご苦労」 それだけ聞くと、その後の授業の続きには耳を傾けずに、もう一度頬杖をつきながら窓の外に広がる空を見上げた。 そのまましばらく眺め続ける。
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