一章 扉の向こう

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ああ……。この感覚だ。 別に空に何か特別なものがあるわけではない。 何かを探しているわけでもない。 ただ、あまりにも高く、地平線の彼方のもっと先にも続いている広い空を見ていると、目ははっきりとしているのに少しずつ全身の力が抜けて、身体の中の何かが出て行く様な――自分の一部がゆっくりと吸い込まれていくような、飛び立って行く様な、そんな気がする。 その虚脱感とも開放感とも似て異なる複雑な感覚がなんとなく好きだった。 本当にこのままどこかに飛んで行けたらいいのに……。 それは、どうしても好きになれないこの世界から出たいという小さな意志の表れなのかもしれない。 そのまま適度な集中と脱力を繰り返しているうちに、授業終了と同時に放課後の訪れを示すチャイムが鳴った。
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