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2人の頬は、私の顔を確認すると見る見る内に赤く染まっていって。
揃って、ぱくぱくと口唇を動かした。
「あ」とか「いや……」とか。意味の通じる言葉にはなっていない、ただの声。
聞こえるのはそればかり。
「本を忘れたんだけど。
文庫本、見なかった?」
藤崎君の手の辺りにあるはずだった本が見当たらなくて、2人から目線を外したまま、訊ねる。
甘ったるい空気が、すぅ、と消えていく。
その残り香を吸い込んでいるような気分になって。
わざと、2人の顔を見ないように俯いていた。
「あ、あぁ……それなら、本棚に戻したかも」
そう答えてくれた宮下さんの声は普段より確実に上ずっていて、ふわりとスカートの裾を広げて歩く様子はやけに芝居じみている。
いつも通りに、と頭で考えているんだろうな、という体の動かし方。そんな印象を受けた。
さっきまでずれていたんだろう赤い眼鏡の小さなねじにカーテンの隙間から入ってきた光が反射して、きらりと光る。
背の高い本棚と本棚の隙間から、明るい茶色の髪の毛がちらちらと動いているのが見える。
何も言わないでただそこに立っている藤崎君は、ふわふわとした動きを見せる宮下さんとは逆――でも、ひどく緊張しているらしく、落ち着きがなかった。
いやな雰囲気。
いつもの部室とはまったく違っていて、ついさっきまで、ここは宮下さんと藤崎君だけの空間だった、と強く私に感じさせる。
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