#1 鳥井万里

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   2人の頬は、私の顔を確認すると見る見る内に赤く染まっていって。  揃って、ぱくぱくと口唇を動かした。 「あ」とか「いや……」とか。意味の通じる言葉にはなっていない、ただの声。  聞こえるのはそればかり。 「本を忘れたんだけど。  文庫本、見なかった?」  藤崎君の手の辺りにあるはずだった本が見当たらなくて、2人から目線を外したまま、訊ねる。  甘ったるい空気が、すぅ、と消えていく。  その残り香を吸い込んでいるような気分になって。  わざと、2人の顔を見ないように俯いていた。 「あ、あぁ……それなら、本棚に戻したかも」  そう答えてくれた宮下さんの声は普段より確実に上ずっていて、ふわりとスカートの裾を広げて歩く様子はやけに芝居じみている。  いつも通りに、と頭で考えているんだろうな、という体の動かし方。そんな印象を受けた。  さっきまでずれていたんだろう赤い眼鏡の小さなねじにカーテンの隙間から入ってきた光が反射して、きらりと光る。  背の高い本棚と本棚の隙間から、明るい茶色の髪の毛がちらちらと動いているのが見える。  何も言わないでただそこに立っている藤崎君は、ふわふわとした動きを見せる宮下さんとは逆――でも、ひどく緊張しているらしく、落ち着きがなかった。  いやな雰囲気。  いつもの部室とはまったく違っていて、ついさっきまで、ここは宮下さんと藤崎君だけの空間だった、と強く私に感じさせる。  
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