フリトの冒険

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黄昏時の陽が降り注ぎ、世界の半分は朱と紫に染まる。 スパントは大きな鳥を捕まえ、二人は静かに食べた。やがて、壮年の騎士は物憂く沈黙を破ったが、自らが寝ずの番に立つ旨だった。 フリトは輝き渡る星空を見上げたまま寝付けなかった。 女々しく思いを馳せ、心にリンの涼やかな目を描こうとした。 するとスパントが槍を持ち上げ、素早く跳ね起きたので、フリトも剣を払った。 突風が吹きすさび、フリトの髪を凪ぐ。背を向け合ったが、つむじ風が大河の様に二人を揉んだ。 フリトは何かが肌を撫でるのを感じた。それは人肌の感触ではなく、獣のそれでもない。夜、木の傍で感じとるが如く、何か黒々しく瞳を射竦める様な物。 為す術もなく、風は二人を置き去って遥かな森へと消えた。
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