17人が本棚に入れています
本棚に追加
風の雄叫んだ後には静けさしか残らなかった。辺りを見ると、月灯りに照らして草原が続くばかりだ。
「誰かが見ていた」
畏れともつく震えを、背に走らせて彼は言った。
壮年の家臣はまだ槍を舞わすかに構え、あたりを探っている。
陽の昇りと共に駆けた。それを二回繰り返し二つの村を越えたが、その夜も不可解な事があった。
「笛の音色だ」
フリトだ。音色は優しく冷涼としている。鍾乳石を滴り、遥か下の水面を叩く様な、柔らかで高飛車な音。
音色の耳を流れる感覚は、林の間を縫うそよ風を思わせた。林とした生命の支柱を渡って、その音色は静かに生命力を誇張した。
笛は啜り泣く様に微かにそよいでいたが、段々と甲高く哭いた。
二人は始め怪しみ、そして徐徐と惹かれていったが、意志を正した時には遅かった。
高飛車な金切り音に鼓膜を掻きむしられ、脳を激しく苛まれ、二人は知らずして噴血の呻きに合っていた。
最初のコメントを投稿しよう!