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記憶の世界は美しかった。なびく草原、森の光と陰。
リンと呼ぶと、彼女は華奢な首を巡らした。肌は透明な艶を帯びている。露に濡れた葉の輝きだ。
彼女に関する限り、全てがそうなのではないかと少年は思った。錫の音のような笑い声、月のつつしみ深さと明るさを持った笑顔。
少年は何時も、その瞳の奥に吸い込まれそうになる。
だがその時、少年は目を凝らす程に彼女が霞んで見えた。彼女の色が簿やけて、彼の目からこぼれる。
彼女はそこに居る筈。と不安になり、ゆっくりと透き通る様な肌に触れる。
すると彼女は居なくなった。
彼女は無数の木の葉となってフリトの手をすり抜けた。
風に散らされるまま、木の葉は激しく吹きすさぶ。
木の葉の群れは風に巻かれ、彼を揉み、吼え声も届かない場所へ飛ばされて行く。
それは山河に降り注ぎ、空へ消え行き、フリトには香りも残さず――。
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