フリトの冒険

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「条件は飲め」 ウォルハルトは言った。表情にはまだ短気な怒りの名残がある。 「旅にはスパントを連れて行け。季節の終わる前に戻らなかった場合は、軍隊を差し向ける。王の許可の有る無しに関わらずだ」 フリトは口を開きかけたが、兄は先を急いた。 「時間はそれで間に合う。お前は都を北へ行き、リュードに見離されて久しい古森を目指す」 「知っていたな」 「推察だ。旅の者から伝承を聞き知った」 吟遊詩人とスパントが呼ばれたのは、すぐの事だった。 詩人シグリスは、松の木じみて古びた男だった。長旅に擦りきれたマント、草臥れた衣を着ている。 「ハルム森の詩を」 ウォルハルトが言った。 「ハルム森の詩を」 老人が繰り返した。 老人は、豊かな白髭の中から吟唱した。 声は嗄れていたが、良く通る、抑揚の明瞭な詩人の声であった。
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