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「黄昏の爺、ゼフがハルムの森を唄ったものです」
老人は恭しく頷いた。目蓋の細い切れ目からウォルハルトを、次いでフリトの目を覗いた。
老人の青緑色の目は不思議にフリトを動揺させる。
日差しの温かさを帯びて、人の頭を射抜く様な鋭さ。
フリトはその視線に妙な懐かしさを感じた。
フリトは有名な詩の一つを口ずさんだ。
それは春夏秋冬を唄った物だが、意味の裏には、ハルムの森を巡る伝承が隠されている。
闇は風の様に訪れ、風の様に森の精をほふる。リュード達は闇を恐れた。あるリュードは闇に朽果て、あるリュードは侵された。これは、去り行くリュードと闇に溶け行く森を預言した詩。
「森の神が唄ったのだったか。人間の創った物だと思っていたが」
「人間の語彙では、到底その真意を現せますまいよ」
吟遊詩人は言った。フリトの心は不思議に同調し、老人は続けた。
「ハルムの森は生きておられる。私の仲間の間では有名な謎です。リュードが離れて久しい森が、一体なぜ生きているのか」
「行かせないために兄さんが躍起になっていた場所だ」
「フォルスの屈強な男たちが失踪する森だぞ?父の身体が弱ったのもあの森に立ち入ったからだ。お前にその気がないなら、今でも弟を行かせるつもりは無い」
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