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だけど、水城が此処に居る事実を否定するつもりはない。
「佐波……」
「ん?」
「……大好き」
少し前にも云ったが水城には体重がなければその姿に触れることも出来ない。
だから、俺の周りには僅かな風が起こるだけだ。
世間ではきっとそれを心霊現象と云うのだろう。
華の香りが俺を包んで、唇に甘い味を残した。
「な、何す……っ!」
彼女はまたふわふわと空中に登って振り向いた。
緩やかに上がった唇に人差し指を添える。
……その仕草は、
……反則だ……。
認めたくないけれど、俺は水城に惹かれて始めている。
この無邪気な幽霊に……どうしようもなく焦がれる。
30年生きてきた中でこんなにも心が揺れたことはない。
訳の分からない生き物は自由気ままに俺の前を踊っていた……。
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