5/6

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
       日付が変わり、私は朝はやく  愛する妻が待っている  狭い自宅に帰った。  「…ただいま……」  私の今にも消えてしまい  そうな細い声を、妻は  解っていたかの様に、玄関に  走って来た。  「おかえりなさい…」  妻は私を抱き締め、私の  存在を確認する様に  何度もキスをした。  「昨夜から何も食べて   いないんだ…」  私が小さく笑うと妻も笑い、  キッチンに私を招いた。  片付けられ、落ち着いた  雰囲気に私は少なからず  癒されていた。  「あの青年と少しだけ   話したよ…」  コーヒーの匂いが  嗅覚を擽った。  「青年の生気はもう   戻らないのだろうか…」  私が呟いたと略同時に目の  前にカップを置かれた。  「私じゃ彼を救う事は   出来ないのだろうか…」  私の言葉に妻は何も  言おうともしなかった。  実際、私はこんな事を  自分から言って置きながら  何も言ってほしくなかった。  「届かないから祈らない…」  彼の声が頭から離れない。  「只、虚しく響くだけ   ですから…」  妻はそれだけを言うと、  肩から下がっていた  カーディガンを直し、  寝室に行ってしまった。  「はぁ……」 .
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加