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「…例えば、」
もし俺が紫紀に
全部話したとしてさ。
それに何の意味があるの?
今までのこと話したところで、
紫紀の記憶は戻らないし、
元の紫紀に戻るわけじゃない。
それじゃ、意味ないんだよ。
「わかるでしょ?」
…確かに、
そうかもしれない。
全て知れば解決するなんて、
そんなはずがないことくらい
俺にだって分かってる。
でも、俺は…っ!
「ねぇ、紫紀」
俯く俺に、彼は
優しく話しかけた。
「つらいし、苦しいだろうけどさ」
紫紀自身が、
ちゃんと自分のこと
思い出してあげないとね。
「大丈夫!俺が付いてるから」
そう言って、俺に微笑んで。
その日はそのまま、
彼は帰って行った。
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