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その日の夕飯の席で、亞恋(あこ)は突然切り出した。
「兄さん、ご相談を1つ、よろしいでしょうか?」
正面に座る彼女は、お茶碗の上にお箸を揃えて、なにやら真剣な表情でこちらを見てた。
妹にはとことん弱い黎明(たみあき)が、いつもと変わらない調子で訊く。
「はい、何でも言ってください」
「実は、とっても申し上げにくいことなんです‥‥。きっと、兄さんはご存知ないと思われますが」
「何ですか?」
「友達が、出来ません」
「サラッと心の痛いこと言われても、兄さん困っちゃいます」
ついでに言えば、妹に友達がいないことくらい、ずっと前から知っていた。それでも言わない優しい兄だ。
「そこで、折り入ってご相談なのですが。お友達というのは、どこの100円ショップで売っているものなのでしょうか」
「そんな100円ショップは見たことがありませんね。100万円くらい払うと、擬似的なお友達になってくれるお店はありますけど」
「音に聞く、100万円ショップですか?」
「そんなものありません」
とんとん拍子の勢いで飛び出す話を遮るように、亞恋が湯のみを口に添える。一時休息、熱いお茶で細い喉を潤した。
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