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『澪…』
降ってくる雨に抵抗など出来ない。
つまりそれは、嫌でも俺が澪のことを思い出してしまうという訳で。
『今何してんのかな。』
会わなくなってからたったの数日。
言ってしまえば十日も経ってない。
それでもあいつが気になって気になって仕方がないのは俺にとってのあいつが大きな存在だったからだ。
『…失う時まで気付けない優しさ、か。』
優れない気分の今の俺にも容赦なく降り注ぐ、雨。
『あーさみぃ。傘買おうかな…。』
そんな俺が、なんで雨に濡れるのが久々なのかというと。
ここ最近雨が降っていなかった。
…って訳ではなくて。
つい何日か前には来てた、あいつからのメール。
"今日雨だよ。傘必須。"
たった、それだけの文章。
でもあいつは、俺と付き合った時から、そのメールを欠かすことなく送ってくれた。
雨に濡れるのが大嫌いな俺のため。
雨が降る日は必ず、メールで教えてくれていたのだ。
それがあいつの優しさ。
あいつの、澪の優しさだった。
そのメールが来なくなった。
これは全て俺の望んだこと。
俺の自分勝手な行動から始まったこと。
『まじさみぃ…。』
人は、失う時まで大切なものに気付けないものだ。優しさ、愛、苦しみ、様々な物に。
雨に打たれながら俺が思い出すのは、澪のこと。
『あいつは傘、持ってんだろーなぁ…。』
ふと思い出す。ほんの数日前の出来事を。
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