サザンクロス~情報屋とコウノトリ Vol.2~

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「……昔はよく泣いて、俺を困らせてたのに」 はは、とトトが笑う。 「……泣いても……仕方ないって、わかったから」 トトが黙って聞いている。 「……泣いても、お父さんは帰ってこない。明日が今より良くなることもない。……それに泣いてると、みんなを困らせてしまうから……」 つないだトトの手に少し力が入る。 大きくて……暖かい手。 知らなかった……。 トトの手って……大きかったんだね……。 「……だから、泣かないって決めたの。泣くくらいなら……笑って、笑って、明日をもっといい日にしようって」 トトが私の方に向き直る。 ぶにっ。 空いてる方の手で、頬をまたつままれた。 「にゃにをふる!?」 「お嬢が恥ずかしいことばっか言うから、照れ隠しです。気にしないでください」 「人の頬をふまんどいて、にゃにをふぉざふか!?」 あはは、と笑いながらトトが頬から手を離した。 そのまま歩きだす。 それから黙ったままのトトと私。 つないだ手のぬくもりだけが、私とトトのすべてだった――。
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