サザンクロス~情報屋とコウノトリ Vol.3~

7/21
前へ
/604ページ
次へ
トトがぐいっと私の腕を引っ張り、ボーイの後を追おうとした。 「ちょっ……! トト! 引っ張らないでっ!」 痛いくらいに腕を引っ張られて、トトに抗議するが、トトは黙ったまま、ずんずんと店の中を進んで行った。 ……まったく、なんなのよ。トトのやつ。 「うふふ。嫌われちゃったみたいね。……あたしが“あの歌”を歌ったからかしら? それとも……“もう一人のあなた”って言ったからかしらね?」 その声は、私達の耳には届かなかった……。  ※ ※ ※ ※ ※ 「……さて」 品の良い、こじんまりとした部屋に通された私達は、グリンダと差向いに座っていた。 フカフカしたソファーに、ボーイが用意してくれた飲み物。 至れり尽くせりである。 「件のお医者様のことなんだけど……。“ギリキン”はわかるわね?」 「……ここから北の方にある農村地帯ですね?」 トトが答える。 「そ。その“ギリキン”にお医者様はいるの」 「また……えらい辺鄙なところに居ますね」 トトがため息をつく。
/604ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1279人が本棚に入れています
本棚に追加