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トトがぐいっと私の腕を引っ張り、ボーイの後を追おうとした。
「ちょっ……! トト! 引っ張らないでっ!」
痛いくらいに腕を引っ張られて、トトに抗議するが、トトは黙ったまま、ずんずんと店の中を進んで行った。
……まったく、なんなのよ。トトのやつ。
「うふふ。嫌われちゃったみたいね。……あたしが“あの歌”を歌ったからかしら? それとも……“もう一人のあなた”って言ったからかしらね?」
その声は、私達の耳には届かなかった……。
※ ※ ※ ※ ※
「……さて」
品の良い、こじんまりとした部屋に通された私達は、グリンダと差向いに座っていた。
フカフカしたソファーに、ボーイが用意してくれた飲み物。
至れり尽くせりである。
「件のお医者様のことなんだけど……。“ギリキン”はわかるわね?」
「……ここから北の方にある農村地帯ですね?」
トトが答える。
「そ。その“ギリキン”にお医者様はいるの」
「また……えらい辺鄙なところに居ますね」
トトがため息をつく。
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