1279人が本棚に入れています
本棚に追加
持ち出された“アガートラーム”。
返り血を浴びた彼女。
何も移さない虚ろな瞳。
全てを象徴するかのような、燃えるような夕陽と赤い虹。
胸に痛みが走る。
“あの日”からだ。お嬢が泣かなくなったのは。
……俺はあの時、何も出来なかった。何もしてやれなかった。無力な自分が悔しくて。悲しくて。
――あの子を守ってやってほしい。来るべきその日まで……。
フィエロ博士との約束。
――お前には生きる意味がある。
フィエロ博士だけが“俺”という無価値な存在に価値をくれた。
それが――彼女。ドロシー=ゲイル。俺の……唯一無二のお嬢。
今度こそ守りたい。
二度と彼女をあんな姿にはさせない。
彼女に降り掛かる全ての災厄は俺が払う。
それだけが……俺の生きる意味。
「……苦しそうで……哀しそうで……見てられないわね」
グリンダが呟く。
「あの子に悲しい思いをさせたくない? 悲しいのはあんたでしょう? あの子が変わってしまったら……自分から離れて行ってしまうかもしれない。それを考えると怖くて悲しくて……たまらないんでしょう?」
最初のコメントを投稿しよう!