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暗い部屋に、月の明かりだけが優しく降注ぐ。
その中で繰り返し聞こえる祈りの声――
どうか……お願いだから……どうか……どうか……
「大丈夫……大丈夫だから……」
聞きたいことはたくさんあるはずなのに、それしか言えなくて……。
子供をあやすように、背中をさする。
――これじゃ、いつかの逆だわ。
そんなことを考えながら、歌を口ずさむ。
それはグリンダが歌っていたあの童謡。
どこか懐かしくて、哀しいあの歌――。
遥か昔……誰かが、私達に歌ってくれた歌……。
「エル……ファバ……博士……」
トトがかすかに呟いたその名前に「おかあさん」と私が小さく答える。
トトの頬につたうひとすじの涙。
月明かりの下、静かな夜に私の歌声が吸い込まれ……トトと私を包み込んでいった……。
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