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荒野を一台のジープが走る。
何かから逃れるように。
何かに挑むように。
ジープの後部座席に座っている少女が声をあげた。
「……あ」
「どうした? ドロシー」
後ろの荷台に座っていた体格の良い男が、少女――ドロシーに声をかける。男の表情は少し強ばっていた。
「ああ。レオン。大丈夫。“軍”じゃないわ」
ドロシーが様子に気付き、荷台の男――レオンにそう答えた。
「虹が、ね。出てたから……」
ドロシーが彼方を指差した。
ジープに平行するように、いつのまにか虹が出ていた。
「……ドロシーは……虹……好きなのか?」
レオンが何とはなしに、ドロシーにそう聞いた。
「嫌い」
にべもなく答えるドロシー。
「……そうか」
……会話が終わる。
「あ……ごめん。レオン」
「……いや、いい」
再び、沈黙。
「……え~っと、ね」
ドロシーが困ったように笑いながら後ろを振り返り、レオンの顔を覗きこむ。
「……昔ね。小さい頃、虹の向こう側に行こうとしてね、家出したことあるの。私。結局連れ戻されたんだけど……」
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