虹の向こうに~望郷 Vol.3~

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「……あの人だって、そんなつもりはなかったんじゃ」 「“つもり”じゃなくてもな……結果的にたくさんの犠牲者を出して、今、また俺達を巻き込もうとしている」 義父さんが、私を見つめる。 「……エムの言う“覚悟”ってのはな……一旦、戦場に身を置くことを決めたなら、自分の幸せは後回しにしろってことでもあるんだよ」 「……自分の幸せ?」 「おそらく、あの女は自分の子供可愛さに、村を見捨てたんだろう。そうして、俺達に頼った。戦場に身を置くものが自分の幸せを優先させれば、流さなくていい血が流れることがある……。いつだったか、あいつが言った言葉だ」 義父さんが、寂しそうに笑う。 「……そうかもしれない。村の人達だって、それぞれの幸せがあったでしょうしね」 義父さんは黙っている。 「……もしも私がそんな風に巻き込まれて、私の幸せを奪われたら、“返して”ってあの人を責めたかもしれない」 だけど…… 「だけど……ね。私は、自分の幸せを優先してしまったあの人を責めることができないの。当事者じゃないからって言われれば、返す言葉もないんだけど……」
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