目玉ちょーだい

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 月が高く昇る頃、室内に響いているのは本をめくる音だけだった。ペラリ、ペラリと時計の音のように規則正しいリズムで奏でられていく。  男は窓際で月明かりと蛍火を頼りに本を読んでいた。真夜中の読書のためだけに捕まえられた十数匹の蛍は、籠の中で飛ぶこともなく仄かな明かりを灯し続けていた。  少女は月明かりと蛍火を頼りに男の顔を見つめていた。静寂を破ったのは少女だった。 「いいなぁ、紫の目」  少女が男の瞳をじっと見つめながら小さく呟いた。  突然綺麗だなどと声をかけられた男は目だけを少女にむけた。  男の目はつり上がっているわけでもないのに目付きが悪かった。そのせいか、少女は不機嫌そうな顔をみせる。 「何。何か言いたいならどーぞ」  少女はその鋭い視線に顔をしかめたまま声をかけた。  男はすぐに本へと視線を戻すと「別に」と、短くそう答えてまた口を閉ざした。
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