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第1章
「キラキラとした星空。
あの星の光は何億年も前の物。
あの星から見たこの地球は、きっと何億年前の地球の輝き。
この星はどんな風に映っているのだろう?」
夜空を見上げてはそんなことを考える。
初夏……梅雨時の夜は涼しくて好きだ。
雨さえ降っていなければ、こうして近くの自然公園から星を見るのがいつしか恒例行事となっている。
私、夢野架苗(ゆめの かなえ)は、ごく普通の家庭でごく普通に暮らして、ごく普通に春牧東高校に通う女の子。
何の変哲もない退屈な毎日を過ごすために、『ごく普通』を繰り返している。
特技も何も無い、ごく普通の子……。
栗色の長いくせっ毛を頭の両横で、リボンで止める。
いわゆるツインテール。
幼い頃からの習慣でこの髪型が一番しっくりくるのだ。
普段着も薄手で大きめブラウスにミニスカート。
友人の薦めで少し香水をしのばせる程度のお洒落しかしたことは無い。
何時間もかけてメイクする人もいるけど、そんなことになんの価値も見いだせない。
ただ時間の浪費に思えてならない。
もっとも、誰かに誉められたいわけではないので気にすることもないか……。
ここはわずらわしい携帯電話も、寂しさを紛らわすテレビもない。
あるのはただ深夜にひっそりとたたずむ草木たちだけ……。
時折車の往来が聞こえるけど……ま、それはしかたないこと。
この穏やかな時間の流れが私はとても好き。
誰もいない……心が落ち着く一時。
「架苗、やっぱりここにいたか」
闇をかき分けるように、無造作に私の聖域が破られた。
その人物はいつものように、安堵の表情を浮かべている。
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