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「紫暮(しぐれ)……。
よく私がここにいるって分かったわね」
薄闇の中にその姿を現した男の子は、黒いつやのある髪を風になびかせて、真っ赤なTシャツにジーンズを穿いていた。
「いつも来ているだろう。
本当にココが好きなんだな架苗」
そう言うと黒く優しい眼差しの幼馴染は、私に笑顔を見せながら隣に座り込む。
なぜか彼には私の聖域を侵されても、イヤな気はしない。
「そう……でもないよ」
私はヒザに顔をうずめながら答える。
いつの間にか栗色の前髪がクルクル巻いていた。
明日は雨になりそうだ。
私は話ながらも、他事を考え出していた。
「……一人になりたかった……からか?」
幼なじみの彼は森野紫暮(もりの しぐれ)。
いつもその黒い瞳で何でも見透かしてしまう。
「そういう紫暮は何で、私を探しに来るの?
お母さんに頼まれたから?」
愚問だと分かっている。
ここ数年同じコトを何度も聞いているから。
それでも、言葉が飛び出してしまう。
いつも返ってくる言葉を期待してしまうから。
「話し相手が欲しい頃かなと思ってな」
いつも通りの答え。
この言葉を聞いて安心する私がいる。
紫暮は学校でも人気が高い……いや、目立つといった方が良いのかもしれない。
正義感が強く、責任感・行動力ともに優れている。
身内の欲目でなくても、そう思える存在なんだ。
それに引き換え私は全く持って冴えない存在。
友達と呼べる人も少なく、その友人さえうっとうしく思えてしまう。
退屈な日常に嫌気がさしては、独りになりたがる。
そのくせ寂しがり屋と言う自分で言ってても救いようの無い性格だ。
ついつい他人と比較してしまう自分がイヤになる。
「そんなこと……」
やっぱり見透かされている。
……図星を突かれて言葉が続かない。
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