第1章

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  「十件か……今日は少ないんだ」  部屋に戻って携帯のメールチェック。  二時間程度の音信不通(仲間内では『家出』と言う)の間にしては少ない方かもしれない。  普段なら三十通を越えるメールが来る事も少なくない。  もっともその内容などどれもたいしたことではないけどね……。 「メールを返信しないと明日嫌味を言われるかな……」  携帯とにらみ合う事数十分。  悩んだ挙句着信メールの全件削除をすることにした。  携帯の電源が落ちていた事にしよう。  うん、そうしよう。  こんな感じで自分を納得させて、布団に潜り込む。  眠くもないけど、布団の中は私にとっての安心できる場所の一つ。  一気に疲れと憂鬱な気分が襲って来たのがわかった。  重なったまぶたが、開くのを拒んでいる。  浅い眠りの中、マナーモードの振動音が幾度か鳴った事を遠くに感じながら……。  今日は朝から雨が降っていた。  雨の日は雨の日でこの雨粒の勢いが季節で違う。  冬の雨は申し訳なさそうに降りしきる。細かい霧を携えて。  夏の雨は大胆に屋根を打ち鳴らす。激しい荒々しさがある。  そして梅雨時の雨、夏ほどの威力は無く冬ほどのつつましさも無い。   こんな雨脚の違いに耳を傾けると少しだけ心が和むね。  詩人の素質あるのかな?  つまらない事を考えてみる。  教室の窓から見る景色は、薄暗い雲を筆頭に街路灯を早々と起こしていた。 ブブブブブ  びっくりした。突然マナーモードの携帯が振動したんだもん。  まぁこれで今日十二件目だけどね。  まだ来るんだメール。  内容を見ると『昨日なんで返事くれなかったの? 心配したじゃない』  また同じような内容のメールが入っていた。  やっぱりね。面倒だな、いちいち返事するの……。 『ごめん、昨日知らない間に電源落ちていたみたい。本当にごめん』  朝から送信履歴をコピーして転送をしている。こんな事を繰り返していた。  ……十三回目?  送り主は学校の友人(?)だ。  面倒なメールじゃなく、直接話しにこれば良いのにと思う。
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