第1章

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  「カナちゃん。昨日どこに行っていたの?」  いきなり背後から抱きついてきた。  『カナちゃん』と言うのは、中学時代からの友人である木野瀬衣音(きのせ いね)ちゃんがつけた私の呼び名。    少し変わった性格の娘で、オカルトに強い関心を示している。  まぁ、そういう意味では私も他人のこと言えないかもしれない……。  栗色の髪に赤いリボンのポニーテールが印象的な小柄な女の子。小柄と言っても私と大差ない一五0センチ前後だ。  香水を忍ばせるお洒落を教えてくれた子でもある。  衣音ちゃんは苺の香り、私は蜂蜜の香りが好き。 「衣音ちゃん。いきなり何するかな?」  衣音ちゃんはいつも通りポニーテールを大きな赤いリボンで結んでいる。  背後から抱きつかれている私は、そのポニーテールを引っ張って衣音ちゃんを引き剥がすのだ。  人なつっこい衣音ちゃんは、何度剥がしても抱きつき挨拶を止めない。  人前だろうがお構いなしなんだ。  彼女は、春牧東高校にオカルト研究会を仮申請してる。  しかも現在その仮活動を認められている行動派。  対して私は、特に何もせず……いわゆる帰宅部なのだ。  ……比べちゃうよね。やっぱ……。 「昨日夜どこにいたのかな?  ひょっとして宇宙人と会ってたりしていない?」 「残念、UFOには会えなかったよ」  衣音ちゃんは私が宇宙へ憧れている事を知っている。  宇宙人を信じている事も、偏見を持たずにしっかりと受け止めてくれている。  紫暮以外では初めてだった。私をバカにしなかったのは……。  もっとも、衣音ちゃん自身オカルト好きと言うこともあるのだろうけど……。  こんな、非現実的な会話が日常的にできるのは彼女くらいなものだ。  人目を気にもせず話しできるんだから。  友達と思える存在があるのは衣音ちゃんのお蔭なのかもしれない。 「そっか、残念。スクープネタ探してるんだけど何か無い?」 「そうね。特にネタになるような事はないよ」  だからって、教室でこの話題……やっぱり恥ずかしいよ。  窓の外に視線を移しながら、彼女の話に素っ気無く答える私。  正直彼女のテンションの高さは見習いたいほどだ。  何故かいつも心が沈んでいる自分とついつい比較してしまう。  どうして周りを気にせずにいられるの?
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