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言ってしまおうか…。
浴衣に着替えて、ようやく一息つく。
浴衣の着付けは意外に手間取った。
鏡を見て、考える。
もしも……。
幼なじみではなく、恋人になれるなら……。
その可能性が0でないならば。
だけど……、あの笑顔がなくなるのは嫌だ。
あの居場所をなくすのも……嫌だ。
どちらかの覚悟をしなければ、どうにも動けない。
ふう…とため息をついた。
真紀が好き。
それは一番強い思い。
自分の中で最もきれいな思い。
それを告げてみよう。
恋人になりたいから、幼なじみだけじゃ足りないから。
そう決心すると、心が軽くなった。
今、言わなかったら、絶対に後悔するから。
祭の夕方。人々は会場がある海沿いへ向かっていた。
一人公園で真紀を待っていると、ものすごく、ドキドキしてきた。
考えてみれば、家も近所だから、どこかで待ち合わせなんて、今までなかった。
それに……、浴衣だし。
そわそわと落ち着かない。
ここまて来て、逃げ出したくなる。
「透子?」
確かめるような声がして、真紀が後ろから覗きこんでくる。
「あ……」
真紀か少し驚いたような顔で、じっとこちらを見ている。
「……」
じっと……、見つめる真紀は無表情だ。
何か言わなきゃと思うが、とっさに口を開けない。
なんだったっけ…。友から教わった言い訳……。
「あ、あの……」
「いいね」
少し照れたような顔で、ぽつりと言うと、真紀は目を逸らした。
「あ……、あのねっ。浴衣、買ってて、それで、着る機会なくてさ」
早口で言い訳をする。
「ふぅん?」
そっぽを向いた真紀が返事する。
「べ、別に真紀のために買ったんじゃ……」
余計に口を滑らせてしまい、口をつぐんだ。
図星を証明するかのように顔が赤くなる。
「……でも、本当、浴衣……いいな」
真紀がぽつりと呟く。
「とりあえず、行こう?」
いたたまれない雰囲気を崩したのは真紀の言葉。
「そうだね」
頷いて、勢いよく歩きだそうとする。
「???!!」
いつもみたいに、素早く歩けなくて、勢いつけていただけに転びそうになる。
「危なっ」
それを止めて、支えてくれたのは、真紀だった。
「……ごめん。はははっ、慣れなくて」
「浴衣着て、そんな勢いよく歩くからだ」
後ろから、呆れたような真紀の声。
「急ぐ必要ないし、ゆっくり行こう」
前に回った真紀が、子供に言い聞かせるように言う。
なんだか、くすぐったい。
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