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いつもより、ゆっくりと歩くのが、気を使ってくれてるのだとわかって、胸が暖かくなった。
……好き。
当たり前のように思う。
少し歩くと、道ぞいに夜店がずらっと並ぶ。
焼いたとうもろこしや、お好み焼きの臭いに引かれる。
「お~、久々。花火ってこれだよな」
真紀が喜ぶ。
「花火大会って、花火メインじゃないの?」
「俺の記憶は、タコ焼きと、ワタアメなの」
「金魚は?」
「……やな事ばっかり覚えてるな」
少しむくれたような顔、覚えてるのが自分だけではないのが嬉しい。
言いだしたのは、自分だった。どうしても欲しかった赤い小さな金魚。
「じゃあ、取ってあげる」
言ってくれた、頼もしい声。
「本当?」
「うん。任せて。透子、下手だからなぁ」
得意そうに言ったその自信に、目を輝かせて真紀を見守る。
「………」
「…………??」
見守る態勢が辛くなってきたころ。
「だめだ」
痺れを切らしたのか真紀がそう言う。
「えぇ~?」
「俺の全財産注ぎ込んでも、あいつには届かなかった!。透子、ごめんな」
「…全財産って、3回しかしてないよ?。透子、5回も挑戦したのに」
「透子、金持ちだな」
「……真紀が、貧乏すぎだよ」
「金魚は俺が大きくなったら、透子の好きなの掬ってやるから」
「あてになんない……」
ふうっとため息をつくと、真紀がぐいっと手を引いた。
「代わりに、ワタアメ食べよう。半分こ」
「もぅ、しょうがないなぁ」
そう言いながらも、内心ドキドキした。
繋いだ手が、心臓になった気がした。
一緒に食べたワタアメはいつもよりずっと甘く、ずっと美味しく感じられた。
「透子」
ぼんやりとしていると、屋台前で真紀が手招いていた。
ゆっくりとそこに近づく。
「どれがいい?」
悪戯っ子みたいに笑う。
示されたのは、金魚の群れ。
「……赤いの」
覚えていたのだろうか?
だけど、このフレーズは……、確かめるように過去の希望を言ってみる。
「赤くて小さいの?。変わんないなぁ」
小さく真紀が笑う。
「待ってろよ」
言って、店の人から道具を受け取る。
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