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…まさかね……。
狙ってるのは元気のいい小さな金魚。
きっと……逃げられてしまうだろう。
「昔とは違うんだって」
自信ありげな声。
ひょいと素早く真紀は手首を使う。
ぽちゃ……と水音がしたかと思うと、小さな金魚は、場所の変化に気づかないようにお椀の中で泳いでいる。
「すごい」
しかも掬った髪はまだ破けてない。
「リベンジ、完了」
にっと悪戯っぽく笑うと、店の人に道具を返してしまう。
「もう、いいの?」
「あぁ。まだ欲しいの?」
店の人から金魚入りの袋を受け取って、真紀が聞いてくる。
「……一匹でいい……。ありがと……」
真紀は金魚を手渡してくれた。
「さて?、ガキの頃のリベンジもできたし。何か食べよう?。そろそろマジで腹減った」
満足そうに言うと、真紀はキョロキョロと周りを見回す。
その時……。
「手島くん……?」
可愛い声がした。
三人の浴衣姿の女の子がこっちを見て、近付いてきた。
紗羅だった……。
「偶然だね。花火、環さんと来たんだ」
「あぁ。先約だったから……」
真紀は素直に言う。
周りの視線が、つまり他の二人の女の子の視線が、刺を含んで感じられる。
「あの……、二人は付き合ってたり……するの?」
紗羅がか細い声で聞いてくる。
彼女は、計算が上手いと思う。
「付き合っては……ないけど」
困ったように真紀が返事する。
「環さん……、ちょっと」
ぐいっと手を引かれて引っ張られる。
歩きなれない下駄がいたい。
引きずられるように、真紀と紗羅から離される。
「何?」
「紗羅ね、手島のこと好きなのよ」
こそっと、紗羅の友達が言う。
「見ればわかるけど」
そう、見ればわかる。だけど見たくない。
「今日の花火だって手島誘って、本当は告白するつもりだったの。環さん、幼なじみでしょ?。手島貸してあげてよ」
自分の事ではないのに彼女達は一生懸命だ。
「ね?。……環さん、手島の事、好きとかじゃないよね?」
どきりとした。
だけど……、はっきりとは、答えられなかった。
真紀を振り返ると、何か楽しそうに紗羅と話している。
絵になる二人だった。
自分と一緒にいるよりも、ずっと……。
「紗羅に告白させてあげて欲しいの」
ずいっと真剣な表情で迫られると、それを跳ね返す力は、なかった。
「……わかった」
頷いて、真紀を振り返る。
真紀は、一瞬だけこっちを見た気がした。
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