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そのまま、歩きだす。
履きなれない下駄のせいか、足がズキズキとした。
「透子?」
小さな声が聞こえた気がしたけど、きっと幻だろう。
振り返ることなく、その場を離れた……。
祭はまだ続いている。
楽しそうな家族連れ、手を繋いで歩くカップル達。
そんな光景が、ぼんやりとした視界に映る。
人気が少し途切れた所で、足を止めた。
ちょうどいい高さの花壇のブロックに腰掛けた。
「いった……」
ズキズキと痛む足から下駄を脱ぐ。
「………ふぅ」
ため息が出た。
泣きそうな声だったのが自分でもわかった。
痛くて涙が滲んでるのか、違うのか……、それはわからなかったけど、思いっきり泣きたい気分だった。
泣くなら……嫌と言えればよかったのに。
自分の中でもそう思った。
でも……できなかった。
結局、何も言えなかった。
彼女達の気迫に押されて。
所詮、その程度の……小さな気持ちだったのだろう……。
違う……でも……もう、遅い。
「ふっ……」
ぽたりと、堪えてきた涙が落ちてきた。
「透子!」
名前を呼ぶ声で、びっくりして涙が止まった。
まさか…、でも……。
顔を上げて、暗い中、街灯に照らされてこっちに向かってくる人影。
「真紀ぃ」
「お前、急にどっか行くし、心配するだろ?」
はぁと息を切らして真紀が睨む。
「……どうして…、だって、……」
「お前と行くって約束してただろ?。……え?、泣いて…??」
真紀の手が、ふんわりと頬に触れた。
暗くて、表情までは見えてないだろうが、声が泣き声だったからだろう。
「何かあったのか?」
真剣な声。
心配して来てくれた。
それが嬉しくて、言葉がすんなりと溢れた。
「好き」
「え?」
溢れた感情で、涙も止まらなくなった。
紗羅のことも、真紀の気持ちも、拒絶もプライドも、何も考えられなかった。
「真紀のことがっ……好きっ……」
泣きながらそう伝えた。
それ以上の言葉は、涙と嗚咽に紛れて出てこなかった。
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