夏宵

3/3
前へ
/14ページ
次へ
心の中がほんのり暖かくなった。 そして、すぐに真紀と仲良くなっていった……。 「透子さぁ~ん?」 頭を撫でられてから、安心するなんて……、簡単すぎるなぁなんてぽつりと思った。 目の前に二本の指が見える。 それを手で阻止する。 「目潰しするつもりかっ!」 「だって透子、あっちの世界から返ってこないからぁ」 にひひっと友が含み笑う。 「写し終わったし、昼ご飯食べて帰ろうぜい」 ノートを渡されて立ち上がる。 「もちろん、奢りだよね?」 「ファミレスでしゅ」 廊下に出ると、夏の熱気を感じる。 時間はどれだけ願っても止まってはくれない、非情に残酷に、そして包みこむように優しく、平等に過ぎていく。一緒にいられる時は……こうしている間も減っているのだ。 「手島くん」 下駄箱に着いた途端に甘えた、妙に鼻についた声が聞こえた。 「何?」 少し迷惑そうな声が応える。 その声音に思わず、笑んでしまう。 心は正直だ。 彼女の声音には明らかに「媚び」が含まれていたから。 「はい」 「?、これは?」 不思議そうな声。 気になって、そうっと下駄箱の陰から覗く。 華奢な体のライン、さらさらの長い髪。 白い肌の……。 美少女、と。 無造作にTシャツを羽織った、少し茶色よりの髪。綺麗に整った涼しげな顔立ち。 二人が寄り添う姿は、ぴったりとはまって見えた。 美少女が差し出したタオルを、彼は受け取ろうとはしなかった。 「忘れたんでしょ? タオル」 にっこりと笑ってもう一度、差し出す。 「教室にあるだろうし……、遠慮する」 そう言って、流れた汗を、服で拭う。 鍛えられた腹筋が、覗く。 その陽にちょうどよく焼けた肌が、妙に艶かしくて、思わず後ろを向いた。 「使ってくれていいのに」 「気持ちだけ、サンキュ」 声だけが聞こえる。そして……足音。 「透子、平気?」 ばくばくした心臓を押さえてると、にやにやと友が笑う。 「手島の、フェロモンにやられたか」 「そんなんじゃ…」 赤くなって反論する……、だけど、最近真紀は……色気があると思う。 バスケをするようになって身長も伸びたし、力もついた。 バスケの試合によくでるようになって…… 大学のスカウトを受けてから、自信がついたのか、さらに磨きがかかったような気がする。 どんどん……、遠くなっていく気がするけど…、真紀が決めた道だから、何も言えない。 …もっと違う存在なら…
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加